ニクイねぇ!最前線

なぜ、三菱電機は「銀箔」と「突板」を家電に使ったのか?

文/ニクイねぇ!PRESS編集部  写真/小原清、下城英悟

2016.06.24

三菱電機イベントスクエア「METoA Ginza」が、東京・銀座の新たなランドマーク「東急プラザ銀座」内に誕生しました。その展示のなかでひときわ目を引くのが、なんと「銀箔(ぎんぱく)」と「突板(つきいた)」を外装に施した特別仕様の家電です。

「銀箔」は漆器や屏風といった伝統工芸品の装飾などに使われ、天然木を薄くスライスした「突板」は家具や床などの表面を美しく仕上げる化粧材として使われます。なぜ、これらの素材が家電に使われることになったのでしょう? 三菱電機株式会社 デザイン研究所の高橋美早さんにお話を伺いました。

三菱電機株式会社 デザイン研究所 ホームシステムデザイン部 ホーム第2グループ 高橋美早さん

 

どうしたら家電に「愛着」を持ってもらえるか

── まずは、なぜ今回「METoA Ginza」内で、このようなデザイン展示を企画されたのかを教えてください。

「METoA Ginza」は、三菱電機についてお客様のご意見を伺うチャンスにもなる場です。私たちデザイナーも「こんなものをデザインしたら、どんな反応が返ってくるのだろう?」というデザインの可能性を問えるこの場で、量産品などではなかなかできないことにトライしたのが、この「銀箔」と「突板」のスペシャルプロダクトです。

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三菱電機は家電デザインの可能性を問うために、METoA Ginzaに「銀箔」(写真上)と「突板」(写真下)を外装に施した特別仕様の家電を展示。この展示物の写真や、METoA Ginza内で撮ったカットにハッシュタグ“#スペシャルプロダクト”をつけてTwitterやInstagramに投稿すると、開発陣とデザインについてのコミュニケーションを図れる取り組みも実施している

 

── なぜ「銀箔」「突板」という素材を選ばれたのでしょうか?

もともと「家電と暮らす」というコンセプトがありました。いっしょに暮らしたい家電ってなんだろう? と。家電は長年使う耐久消費材ですが、一般的には買った瞬間から、どんどん価値が下がっていきます。最新テクノロジーが搭載された新モデルが出れば、どんどん古くなるだけのものです。でも、家電以外では、そうではないものもたくさん存在します。

── 嗜好品などはたしかに違いますね。

愛着や思い入れを持ったり、使い込むことで味が出たりする道具やモノもたくさんあります。家電を手掛ける者としては、家電もそうあって欲しいなと思います。そして「どうやったら家電に愛着を持ってもらえるだろう」と考えたとき、本物の素材を使うことで、家電にもそういう感情を持ってもらえるのでは、という考えに至りました。

── 本物の素材といっても、いろいろありますよね。

そうですね。たとえば、漆なども検討しましたが、漆はすでにほかのメーカーさんがヘッドホンやテレビなどで使われていて、工業用漆の世界もすでに確立されています。せっかくの機会ですから、既存のものではなく、新しいものに挑戦しようと決めていました。

──「銀箔」や「突板」の家電なんて、たしかに聞いたことないですね。

この「銀箔」や「突板」には、それぞれ本物の素材を使っているのですが、本物の手触りや、使うたびに温もりを感じられる、味が出てくるところがいいですよね。とくに「銀箔」はかなり繊細な金属で、エイジングされるにしたがって、色がどんどん変化していくんです。通常の家電だと、変化するといえば、単に汚れていくといった印象ですが、素材が本物だと、自分なりの道具になっていき、馴染んでいく。そこが、家電でありながら愛着や思い入れが持てる最大の理由だと思います。

 

“アクセント”と“フィット”。人と空間に調和するふたつの考え方

── 三菱電機のデザインには「調和」や、家電を単体の製品ととらえてデザインするのではなく、周囲の空間と調和させることを目的にデザインするという新たなコンセプト「空間適合」といったキーワードが存在しますが、そちらの観点からみて、「銀箔」「突板」との相性はいかがですか?

調和の中には、「人と調和」と「空間と調和」のふたつの考え方があります。さらに、「空間と調和」にもふたつの考え方があって、それぞれ“フィット”と“アクセント”という言葉で表現できます。

── それはどういうことでしょうか?

“フィット”型は、壁紙や家具などと同じ色にそろえて馴染む、という調和の考え方です。“アクセント”型は、たとえば、真っ白な部屋のなかに絵を飾ると、適度なアクセントやリズムが生まれ、結果的に部屋全体のインテリアが整って調和する、という考え方。それぞれデザインのベクトルは違いますが、調和というキーワードでくくることができます。

── 「銀箔」や「突板」はそれぞれどちらになるのでしょうか?

「銀箔」は、アクセント型の調和。空間にアクセントを与えて、部屋全体の空気を変えてくれるような存在です。そして「突板」は、古くから使われている木という素材を使い空間に馴染ませ、フィット型の調和の考え方に近い素材だと思います。

── 人と調和するという考えでは、このふたつの素材はどう表現できますか?

「突板」では手触りや温もりを感じてもらったり、「銀箔」ではエイジングを楽しんでもらったり。そういった価値観で、人と調和をするという考え方を取り入れました。

── 実際、こちらを製作するに当たり、どのようなところとタッグを組まれたのでしょうか?

「銀箔」でご協力いただいた株式会社歴清社(http://www.rekiseisha.com/さんは、非常にイノベーティブです。これまで、箔の多くは工芸品で使われていたのですが、少しの箔を小さなものに使う世界観のままでは業界がまったく潤わない、ということで、箔を使った壁紙を生産し、その80%以上をグローバルで販売しているという希有なメーカーさんです。

「突板」でご協力いただいた北三株式会社(http://www.hoxan.co.jp/さんも、家具だけでなく、ホテルや大きな店舗、さらには鉄道の「ななつ星 in 九州」の内装を手掛けるなど、どんどん新しい世界に進出して新たな突板の可能性を切り拓いています。

 

光や壁の色、エイジングで表情を変える「銀箔」の魅力

── そういったメーカーの方々と、今回、三菱電機も家電という新たな課題を通じて、いっしょに「銀箔」や「突板」を使ったデザインの可能性を考えたということですね。

そうですね。先ほどから「銀箔」や「突板」とひと言でくくっていますが、実はどちらにも、たくさんの種類があるんです。ここにたどり着くまでに、いろいろ試しました。たとえば、箔は「金箔」「銀箔」「スズ」「銅」「プラチナ」と、金属の種類だけでも多数ありますし、表現する方法もたくさんありました。

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銀箔を施した三菱冷蔵庫 WXシリーズ

たとえば、“いぶし銀”という言葉にあるように、燻す時間によって、ピンクからグリーンに変化し、さらに黒に近づく手法などがありました。そのさまざまな素材・手法のなかでこの「銀箔」を選んでいます。

「突板」も同様です。今回使ったのは、「ローズウッド」という素材ですが、素材の明るさや色味、年輪の紋様などすべて異なり、極端にいえば、木の数だけ「突板」はあるのです。この「突板」と「ローズウッド」のふたつに決まるまでに、とても長い時間を費やしました。

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突板を貼った三菱冷蔵庫 WXシリーズ

── 「METoA Ginza」が銀座にあるから“銀”、というものではないんですね。

銀座はかつて、銀を取り扱っていた街なので、まったく縁がないわけでもありません。それも含めて、大真面目に本銀箔にこだわっている部分もあります(笑)。銀色の箔には種類がたくさんあって、先ほど挙げたように、プラチナ箔もスズ箔もみんな銀色ですが、今回は本物をまとうことによる高級感を狙って、本銀箔にこだわりました。

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銀箔を施した三菱IHジャー炊飯器 本炭窯KAMADO

光の映し出し方や輝き方、銀特有の上品さや上質さなども考慮した結果、“銀座で銀”にたどり着いたのは、運命だったのもしれませんね。

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銀箔を施した三菱コードレススティッククリーナー iNSTICK

── 実際のスペシャルプロダクト家電を拝見して思ったことは、「銀箔」ってもっとギラギラとした、ゴージャスな雰囲気だと想像していたのですが、それとはまったく違う印象ですね。

そうですね。実は「箔」のメーカーの方に「箔って、ギラギラしたものとか目立つものだって思うでしょ?」と聞かれたとき、私も「そういうイメージです」と返しました。するとその方が「昔はいまのように明るくなくて、部屋の灯りはろうそく。たとえば、ぜんぶ金箔を貼った茶室に、ろうそくの炎がふわっと灯ることで、その光を拾った金箔がほんのり輝く。その輝きこそが『箔』の輝きだったんです」と教えてくださいました。侘び寂びの世界では箔こそが本物、という話を伺い、さらに周囲の光や壁の色などの映り込みを美しく表現できるようにしたいと、「METoA Ginza」内での展示方法のヒントまでいただきました。

── 興味深い話ですね。

同じ「銀箔」でも、ちょっとした光の加減や壁の色味で、それ自体がまったく異なって見えるのが「銀箔」のおもしろいところですね。たとえば、エアコンと冷蔵庫を比較しても、大きさも違えば、置かれる高さも違いますよね。それによって光の当たり方は変わりますし、同じ「銀箔」でも表情が違います。それと、時間が経つにつれ、素材は銀なのにだんだんとピンクに変色したりするんですよ。

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銀箔を施した三菱ルームエアコン霧ヶ峰 FLシリーズ

── 「METoA Ginza」に設置されたモデルを最初にご覧になった方と、3カ月後にご覧になった方とでは、違う色味に見えている、ということも考えられますね。その変化も楽しめる、と。

まさに、そこも狙いです。1枚1枚の「銀箔」を“箔マス”と呼ぶのですが、それぞれの端面からエイジングされていくんです。金属が端っこから錆びていくのと同じように。繊細な素材なので、念のため、クリアコートは施していますが、エイジングが徐々に進むことには驚きました。おそらくですが、最初にピンク、オレンジとだんだん変色して、最後は緑から黒になるはずです。

── もともと同じ「銀箔」なのか? っていうくらい変色するんですね。

“変わること”に価値が見出せる素材だからこそ、もっと長く使ってみよう、大事に使おうといった愛着が湧くのではないかと思っています。

── いわゆる耐久消費財的なものではなく、嗜好品としての家電になるというわけですね。

そうですね。いっしょに暮らすものとして考えると、家電でありながら、愛車などの嗜好品に近い感覚を味わえる、そんな家電かもしれません。しかも、完全に手作業で作っているので、同じものがほかに存在しないという点も、そうした感覚にリンクするかもしれませんね。使われ方や置かれる場所によっては、エイジングも千差万別です。完全な一点ものです。そんな家電はありませんよね。

 

木の温もりと、モダンなインテリアに調和する質感

── さて、一方で「突板」の方ですが、こちらも「銀箔」の真相を聞いた後だと、相当のこだわりがあると予想するのですが、いかがでしょう?

「ローズウッド」という本物の木をスライスした「突板」を手作業で貼り付けていますので、ふたつとして同じものがありません。同じ樹種でも個体によって模様の出方が異なりますので、プロトタイプとして製作した「突板」の家電と、「METoA Ginza」に展示されている「突板」の家電とでは、表情がまったく違うんです。

── 当初のプロトタイプは暗めのトーンですが、具体的には、どう違うのでしょうか?

METoA Ginzaに展示しているものは、プロトタイプに比べ明るくて木目が際立っています。

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METoA Ginzaにアートピースのように展示された、突板を貼った特別仕様の家電

木の温もりを感じてもらえるようにしたかったので、同じローズウッドのなかでも、木目の柄が少し立っているような“一品ものの価値”が出る「突板」を選定しました。

── こちらの「突板」の炊飯器ですが、ラウンド形状の「本炭釜 KAMADO」ではなく、スクエア形状の蒸気レスモデルを使用されてますね。やっぱり「突板」を「本炭釜KAMADO」のラウンドしたボディに貼るのは難しかったのでしょうか?

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突板を貼った三菱IHジャー炊飯器 蒸気レスIH炭炊釜

鋭いですね。そのとおりです。「突板」という目の流れがあるものを、大きくて曲面のあるものに貼ることが難しくて。木目を美しく見せる、という観点も踏まえ、スクエア型の蒸気レスモデルを選択しました。ただ、「突板」のメーカーさんは、クルマのインテリアなどに貼る技術は持っているんです。高級車のハンドルやインパネには、本物の「突板」が使われていて、そういったこともやっているメーカーさんです。

── それ以外にも、天然木だからこその苦労も経験されたのではないでしょうか?

今回の展示品を「木の塊から切り出されたような展示にしたい」と「突板」メーカーさんに伝えたところ、「それなら展示台のほうの木もそろえなければ駄目ですよね」ということになって、展示台の大きさ分を取れるローズウッドを手配してくださったんです。必要とする量の素材を取れるローズウッドと、取れないローズウッドとがあるなんて私たちは知らなかったので、一緒にやることで知れることも多かったですね。

── あと「突板」も「銀箔」と同様、さまざまな種類の木があるなかからローズウッドに決まったんですよね?

たとえば、黒檀みたいに高級な木材もありますが、見た目は美しくても数を確保できないので断念しました。ある程度の数をしっかりと確保できて、なおかつ高級感を感じてもらえるような観点で選んでいったのがローズウッドだったのです。温もりを伝えたいという意味では、いい方向に進んだなと思っています。

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突板を貼った三菱ルームエアコン霧ヶ峰 FLシリーズ

── こういう「銀箔」や「突板」のモデルは、デザイン先行で作られたものだと思いますが、実際、生産する現場からは、どのような声が聞かれましたか?

実際、工場の方々に「銀箔」のモデルを見せたとき、おもしろい反応が返ってきました。いままで私たちデザイナーは、たとえば、冷蔵庫の上部にある樹脂部品のような、機能には必須だけれどデザイン的には美しくないパーツなどは、極力薄くしたいという話を常にしていたんです。でも、工場側からすると、お金もかかるし作るのも大変だから、そのまま使わせて欲しい、といわれるんです。でも、今回この「銀箔」を見せたとき、工場の設計の方々が、逆に「この部品はない方がいいね」といってくれたんです。そのときに、「銀箔」や「突板」の家電を作って良かったなと思いました。

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突板を貼った三菱コードレススティッククリーナー iNSTICK

── 美しいものを作ることで、工場の方も想いを共有できたということですね。

美しい家電を見ると、コストや製造、生産条件といった制約よりも、きれいに作りたいとか、きれいに仕上げたいという気持ちが優先される、ってことなんですね。プロの設計者ですから、本来であれば、それよりも先に違う条件が頭に浮かぶのでしょうが、「銀箔」や「突板」の家電を見たときには、自分の世界とは関係ないと否定することなく、素直にそういうふうに感じてもらえたんです。それはデザイナーとして、本当にうれしかったですね。

── プロの設計者をも変える力がある。それほどの美しさや輝きを「銀箔」や「突板」の家電が秘めている、ということが証明されたわけですね。また、この「METoA Ginza」全体をデザインされている空間デザイナーの窪田茂さんとは、この「銀箔」や「突板」の家電ついて、どのようなことを話されましたか?

窪田さんは「銀箔」や「突板」の家電をご覧になって「販売店のように展示するのではなく、ひとつのアートピースみたいな形で展示してほしい」といわれました。

── 最後に、実際「METoA Ginza」を訪れた方で、この「銀箔」や「突板」の家電を目にされた方に、どのようなことを期待したいですか?

もともとのコンセプトが「家電と暮らす」であり、いっしょに暮らしたい家電ってどんな家電だろうということを考え、この「銀箔」や「突板」の家電を提案させてもらいました。ご覧になられた方々の率直なご感想を伺いたいです。肯定的なご意見でも否定的なご意見でも構いません。こちらが発信するだけでなく、いろいろなご意見を伺えることが大切ですし、これをきっかけに、三菱電機のデザインを知っていただいて、この場が私たちデザイナーとお客さまとのキャッチボールが繰り返される場所になったらいいなと考えています。

 

 

*「METoA Ginza」での「銀箔」と「突板」を外装に施した特別仕様の家電の展示は7月10日(日)をもちまして、終了致しました。

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